よくお客様から聞かれること、それは・・・
「個人事業で仕事をするのと、法人化するのとどっちがいいんですか?」
一言で答えるには難しい質問です。
というのも、個人事業にも法人にもそれぞれメリット・デメリットがあるからです。
また、そのメリット・デメリットの中には、金額では計れないものもあります。
個人事業と法人化のメリット・デメリットをまとめました。
(相対的にメリットの方には〇、デメリットの方には×、どちらにもなるものには△をつけています。)
個人事業 | 法人 | |
開業 | ○ 設立登記が不要で簡単・手軽に始められる | × 設立登記が必要であり、設立費用も発生する。 |
対外的信用 | × 法人に比べ劣る | ○ 信用力あり |
税率 | △ 超過累進税率 | △ 比例税率(一定税率) |
欠損金の繰越期間 | × 3年 | ○ 9年 |
事業年度 | × 1月1日~12月31日で変更不可 | ○ 自由に決算月を決められる。また、後に変更も可能。 |
自分の給与 | ○ 事業主自身の給与は経費にはなりませんが、売上から経費を引いた残りは、個人のものです。 | × 売上から経費を引いた残り は社長ではなく、法人に帰属します。また、社長自身の給与は経費となりますが、基本的に1年間変動させることはできません。 |
交際費 | ○ 事業遂行目的であれば経費 | × 損金算入限度がある |
事業承継 | × 事業自体を相続人に移す必要あり | ○ 事業は法人で変わらず遂行し、決議で社長変更可能 |
これらのどの点を重視するかによって、法人化するか否か、法人化する場合にはそのタイミング等を決定することになります。
今回は中でも、上の表で、いずれも△となっている「税率」部分を数値を使って解説します。いずれも△となっているのは、どの程度儲けているかによって、個人事業の方が税金が安いのか、法人の方が税金が安いのかが変わるからです。
例を使って考えてみましょう。
個人事業の場合
売上3,000万円
経費2,000万円
事業主の取り分は、3,000万円-2,000万円で1,000万円です。事業主は「自分の事業から給与をもらう」概念がない代わりに、売上から経費を差し引いた残りが取り分となります。
1,000万円から支払った保険料や医療費を控除し、扶養家族がいる場合には一定額をさらに控除します。(控除の合計を仮に100万円とします。)
1,000万円-100万円=900万円
この900万円に税金がかかります。
所得税の場合には、超過累進税率(5%~40%)がとられており、儲けが多い人ほど高い税率となる仕組みになっています。
900万円×23%-63.6万円=143.4万円(所得税の金額)
このほかに、10%の住民税、美容業ですと5%の事業税がかかり、単純計算ですが、
所得税(143.4万円)・住民税(90万円)・事業税(45万円)の合計で278.4万円
となります。
法人化した場合
売上3,000万円-経費2,000万円は個人事業の場合と同じですが、このほかに法人が支払う社長の給与も経費になりますので、仮に社長の給与を800万円とすると・・・
3,000万円-2,000万円-800万円=200万円
200万円が法人の儲けとなり、これに税金がかかります。
法人の場合、税率は基本的に一定です。(場所によって多少変わりますが、法人税・住民税・事業税合わせて35.64%です。)
200万円×35.64%=71.28万円(法人税・法人住民税・法人事業税の金額)
忘れてはならないのは、社長が受け取る800万円の給与は、法人で経費になる一方で、社長個人の所得税の対象となります。
個人に課せられる所得税
収入800万円-給与所得控除額(800万円×10%+120万円)=600万円(給与所得)
この給与所得600万円に所得税の超過累進税率を適用します。
600万円×20%-42.75万円=77.25万円 (所得税の金額)
他に住民税が、60万円(600万円×10%)かかります。
(給与所得者には個人事業税はかかりません。)
よって、合計は、208.53万円
このケースですと、法人化した方が、69.87万円税金が安くなります。
社長の給与を多くすればするほど法人の利益は減少し、法人税は減少しますが、反対に社長個人にかかる所得税が増加します。
このバランスも考えて、社長の給与も決定する必要があるのです。
実際に法人化を検討する際には、税金の多い少ないだけではなく、全体的な事業主の考え方を反映させて検討していくことになります。
~参考~
所得税の超過累進税率
【平成26年分】
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | - |
195万円超330万円以下 | 10% | 9.75万円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 42.75万円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 63.6万円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 153.6万円 |
1,800万円超の部分 | 40% | 279.6万円 |
【平成27年分以後】
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | - |
195万円超330万円以下 | 10% | 9.75万円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 42.75万円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 63.6万円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 153.6万円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 279.6万円 |
4,000万円超の部分 | 45% | 479.6万円 |
※この表の使い方
上記、個人事業の場合の税率を乗じる金額は900万円です。
900万円をこの表にあてはまめます。
そうすると税率23%のところに当てはまり、
900万円×23%-63.6万円 で税額は143.4万円となります。