こんにちは、今回で第10回目になりました。開業コラムシリーズです。

さて今回は、よくお客様から聞かれることの多い、こちらの疑問についてお答えしたいと思います。

個人事業と法人化はどっちが良いのか

この質問に、まず簡単にお答えすると、

「残念ながら、一言で答えるには難しい。」という回答になってしまいます。

というのも、個人事業・法人には、それぞれのメリットとデメリットがあるからです。

また、そのメリットとデメリットの中には、金額では計れないポイントも多くあるので、よく考えてお選びくださいとしか言えないというのが本音です。

そこで以下では、個人事業と法人化、それぞれのメリット・デメリットを比較していこうと思います。

メリットとデメリット

それでは、さっそく以下の表に、個人事業と法人化のメリット・デメリットをまとめてみました。

(相対的にメリットの方には〇、デメリットの方には×、どちらとも言えない物には△を付けています。)

個人事業法人
開業○  
設立登記が不要、簡単・手軽に始められ
× 
設立登記が必要、設立費用も発生する
対外的信用× 
法人に比べ劣る
○  
信用力あり
税率△  
超過累進税率
△ 
比例税率(一定税率)
欠損金の繰越期間× 
3年
○  
9年
事業年度× 
1月1日~12月31日で固定
○  
自由に決算月を決められる、後で変更も可能
自分の給与○  
事業主自身の給与は経費になりませんが、売上から経費を引いた残り全額が個人のものになります。
× 
売上から経費を引いた残りは、法人に帰属。社長の給与は経費となりますが、基本的に1年間途中で変えられません。
交際費○  
事業遂行目的であれば経費
× 
損金算入限度がある
事業承継× 
事業を相続人に移す必要あり
○ 
事業は法人で変わらず遂行、決議で社長変更が可能

これらのどのポイントを重視するかによって、法人化したほうが得か否かが決まります。

また、法人化する場合には、事業年度などを考えながら、そのタイミングを決めることになります。

税率の違いについて

今回はさらに、表の中でいずれも△となっている「税率」について掘り下げてみたいと思います。

まず、△となっている理由は、どの程度儲けているかによって、税金の安さが変わるからです。

それでは具体的に、個人事業と法人で、税金がどのようになるのか見ていきましょう。

個人事業の場合

仮にもし、売上3,000万円、経費2,000万円とした場合、事業主の取り分は、3,000万円-2,000万円で1,000万円です。

事業主は「自分の事業から給与をもらう」概念がない代わりに、売上から経費を差し引いた残りが取り分となります。

ここから、所得控除を計算

次に、そこから所得控除を考えます。

取り分の1,000万円の内、すでに支払った分の保険料や医療費を控除。

また、扶養家族がいる場合にはさらに一定額を控除します。

今回は、控除の合計額を、仮に100万円と計算しましょう。

1,000万円-100万円=900万円で、900万円が税金の掛かる対象額です。

次に、所得税を計算

所得税については、超過累進税率(5%~40%)がとられており、儲けが多い人ほど高い税率となる仕組みになっています。

900万円の所得の場合、税率が23%なので、

900万円×23%=207万円

さらに、ここから税金の控除額63.6万円を差し引いた金額、

207万円-63.6万円=143.4万円が所得税になります。

(※) 税金の控除額と税率の早見表が、記事の最下部に掲載してあります。

さらに、他の税金は

さらに、この他に、住民税が10%、美容業ですと事業税に5%分がそれぞれ必要です。

単純計算で、所得税(143.4万円)・住民税(90万円)・個人事業税(45万円)。

合計で278.4万円の税金が必要になります。

法人化した場合

先ほどと同じく、売上3,000万円、経費2,000万円とした場合、

3,000万円-2,000万円は個人事業の場合と同じですが、この他に法人が支払う社長の給与も経費になります。

つまり、仮に社長の給与を800万円とすると、

3,000万円-2,000万円-800万円=200万円

200万円が法人の儲けとなり、これに税金がかかります。

ここから税金を計算

法人の場合、税率は基本的に一定です。

場所によって多少変わりますが、法人税・住民税・事業税を合わせて35.64%になります。

つまり、200万円×35.64%=71.28万円が合計の税金です。

社長の給与について

ただし、ここで忘れてはいけないのは、社長が受け取る給与800万円の方の税金です。

社長の給与は、法人では経費になる一方、社長個人の所得税の対象になります。

先ほどの個人事業の所得税と同様の計算をした場合、個人に課せられる所得税は、

収入800万円-給与所得控除額(800万円×10%+120万円)=600万円(給与所得)

で、給与所得が600万円となり、ここに超過累進税率を適用します。

つまり、600万円×20%-42.75万円=77.25万円が所得税となります。

(※) 税金の控除額と税率の早見表が、記事の最下部に掲載してあります。

さらに、他の税金は

さらに、先ほどと同様に、住民税が60万円(600万円×10%)。

また、給与所得者には個人事業税はかかりませんので、事業税は0円となります。

つまり、法人税(71.28万円)・所得税(77.25万円)・住民税(60万円)。

合計で208.53万円の税金が必要になります。

今回のケースの場合

つまり、今回のケースの場合、法人化した方が69.87万円分の税金がお得になっています。

ただし今回は、所得の額自体も個人事業と法人化で異なる数字を使わせていただきました。

実はこれには一つ理由があって、社長の給与と法人税のバランスの問題があるからです。

社長の給与と法人税について

例えば、社長の給与について、多くすればするほど法人利益が減少し、それに伴い、法人税も減っていきます。

が、反対に社長個人にかかる所得税が増加します。

そして、このようなバランス関係も考慮して、社長の給与を決定する必要があったということです。

今回のまとめ

ということで、今回は個人事業と法人化のメリットについて考えてきましたが、いかがだったでしょうか?

特に、今回は税金のお話が多く、頭を抱えた方もいらっしゃったかもしれません。

ですが、実際に法人化を検討する際には、所得と税金の比較は重要なポイントになるだろうと思います。

また、全体的な視点から、事業主の考え方を反映させていくことが大事だとも思います。

個人事業にも法人化にも、それぞれのメリットはありますので、ぜひよく考えながら検討していってください。

参考:所得税の超過累進税率  

【平成26年分】        

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%
195万円超330万円以下10%9.75万円
330万円超695万円以下20%42.75万円
695万円超900万円以下23%63.6万円
900万円超1,800万円以下33%153.6万円
1,800万円超の部分40%279.6万円

【平成27年分以後】

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%
195万円超330万円以下10%9.75万円
330万円超695万円以下20%42.75万円
695万円超900万円以下23%63.6万円
900万円超1,800万円以下33%153.6万円
1,800万円超4,000万円以下40%279.6万円
4,000万円超の部分45%479.6万円

この表の使い方

ご自身の所得額から、対応する列をお探しください。

所得税 =(課税所得金額 × 税率)- 控除額

以上の式で所得税が計算でき、所得900万円の場合、

(900万円 × 23%)- 63.6万円で、税額が143.4万円となります。